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 気が付くと、愛梨たちは白露庵に戻っていた。

 愛梨は先ほどの出来事を思い出し、動揺しながらあおいの姿を探す。


 彼女に警告する時間すらなかった。

 すべてが一瞬の出来事で、危ないと思った時には、二人とも車に轢かれた後だった。


 蝶の鱗粉のような光の粒が、ふわふわとあおいの周囲で輝いている。あおいは宙に浮かんだ状態で、愛梨を見下ろしていた。


 愛梨は驚いて言葉を失う。


 ――まるで幽霊のようだ。

 白露は最初からそれを分かっていたかのように、落ち着いた様子で彼女に話しかけた。


「魂だけの状態になってなお私の店に訪れるお客様は、久しぶりです」


 あおいは今にも消えてしまいそうな、儚い声で答える。


「私と昭ちゃん、事故に遭ったんです。昭ちゃんは、どうなったんですか?」

「……亡くなりましたよ。前回の時間でも、今回でも、昭平さんは助かりませんでした。あなたは事故の衝撃で魂だけの存在になり、ここに辿り着いたみたいですね」