「私、普通の女の子と同じように、学校に行けなかった。

学校の行事には、まともに参加できたことがない。遠足とか運動会とか、羨ましかった。

友達と放課後、ケーキを食べに行ったり、カラオケに行ったり、家族で旅行に行ったり、そういう、普通の子にある当たり前の思い出とかない」


 握った手の平から、昭平の鼓動が伝わってくる。

 生きてるんだ、と思う。

 まだ生きてる。ちゃんと生きている。


「だけど昭ちゃんは、いつも私に会いに来てくれたよね。本当のことを話すとね、私、昭ちゃんが来なくなればいいのにって思ったこともあるんだ」

「どうして?」

「昭ちゃんの……みんなの負担になりたくないよ……」


 昭平はあおいの身体を強く抱きしめた。


「みんな、あおいが大切だから頑張ってるんだ。負担になんて思ってない」


 それから少し身体を離すと、嘘のない真っ直ぐな瞳を彼女に向けた。


「あおい、手術を受けて欲しい」

「昭ちゃん……」

「今日はあおいに、それを伝えたかった」


 前回の時は、聞けなかった言葉だ。

 あおいの肩に置かれた昭平の手が――小さく震えている。


 本当は、彼も怖がっている。

 ただ表情に出さないだけだ。


 それに気付いたあおいの眉が、情けなく下がる。


「でも、失敗するかもしれないんだよ。そうしたら、死んじゃうんだよ」