確かに非常階段を七階まで上がると、目の前に景色を遮る建物は一つもなくなった。

 人もいないし、ここなら落ち着いて花火を見ることが出来るだろう。

 あおいは嬉しそうに笑って、階段の手すりから上半身を乗り出す。


「おい、落ちるなよ。危ないから、もっと下がれって」


 それを聞いたあおいは、くすくすと笑った。


「ごめんね、どうしてもはしゃいじゃって」


 そんな話をしているうちに、一発目の花火が打ち上がった。

 それを皮切りに、鮮やかな花火が次々と夜空に咲く。


「花火、綺麗だね。入院中、ずっと考えてたんだ。もし昭ちゃんをお祭りに誘えたら、ここに来ようって。どうしても、昭ちゃんと花火が見たかったんだ」


 前回は昭平が同級生と楽しそうに話す姿に嫉妬して、まともに花火を見る余裕がなかった。

 だから今度はちゃんと、すべてを自分の瞳に刻みつけておこうと思った。


 夜空を覆い尽くすような花火の眩しさ。

 心臓に直接響くような、打ち上げ音。

 花火が散った後の、一瞬の暗闇と静寂。 

 目を細めて幸せそうに花火を見上げる、昭平の横顔。


 そして彼は、あおいの視線に気が付くとさっきよりも嬉しそうに笑う。


「綺麗だな。俺、本当はそこまで花火に興味なかったんだ。だけど、あおいと見られてよかった。心からそう思うよ」


 優しい声が耳元で響くと、自然と涙がこぼれそうになった。

 必死に笑顔を作り、昭平に話しかける。