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今回のあおいは、昭平とケンカをするつもりはなかった。
彼に怒りをぶつけることもしなければ、彼の同級生に嫉妬することもしない。
穏やかに彼女たちと離れると、二人は手を繋いで、ゆっくりと歩いた。
あおいは昭平に提案する。
「花火、見に行こうか」
「あぁ。どこで見る? 場所取りしてないと、座って見るのは無理だな」
昭平は石段を上がった場所にある、神社を見上げた。
「あそことか、意外と穴場だったりして……」
「そこはダメ!」
突然大きな声を出したあおいに、昭平は目を見開いた。
「別のところにしよう! 私、良い場所知ってるよ」
悪い思い出しかない、神社の石段には近づきたくなかった。
あおいは昭平の手を引き、人々が集まっているのとはどんどん逆方向へ進む。
そして廃ビルの立ち入り禁止の鎖をくぐり抜け、平気な様子で非常階段を昇っていく。
「おいおい、ここ入って大丈夫なのか?」
「うん、このビルね、知り合いのおじさんの建物なの。入ってたお店とか全部潰れちゃって、もうすぐ取り壊し予定なんだけど……なかなか穴場でしょ?」