昭平の目が、悲しげに見開かれる。


「どうしてそんなことを言うんだ?」

「知ってるんだよ、私、もうすぐ死んじゃうってこと」

「死んだりしない。現に元気になって、一時帰宅の日程だってだんだん伸びてるじゃないか」

「手術をしなければ、結局病気は治らないよ! ゆっくり死ぬのを待つか、手術に失敗してすぐに死ぬか、そのどっちか!」

「簡単に死ぬなんて言葉を口にするな。手術に成功すれば、リハビリして、すぐに元気になる。前みたいに、学校にだって行ける」


 あおいはぶんぶんと首を横に振る。


「嫌だよ、もう手術するの。病院にも戻りたくない! 昭ちゃんには、私の気持ちなんて分からないよ! 毎日毎日病院にいて、やることもなくて……」


彼を傷つけたいわけではないのに、優しい言葉が出てこない。


「友達にも会えないし、家族も私が入院してるから苦労ばっかりして、ずっと働いて……私がいるとみんなの迷惑になるばっかりだから、さっさと死んじゃえばいいんだ!」


 言われた瞬間、軽く頬を叩かれた。

あおいは昭平に叩かれたことに驚いて、顔を上げる。


「……そんなことを言うあおいは、嫌いだ」


 今までどんな我が儘を言ったって、昭平に叩かれたことはなかった。

 だけど昭平は、あおいよりもずっと傷ついた顔をしていた。


 あおいの瞳から、涙が溢れる。

 自分はなんて卑怯で醜いのだろうと思う。そう考えたら、彼の前にはいられなくなった。


「おい、あおい!」


 あおいは彼を振り払い、石段を駆け下りた。

 どこでもいいから、どこかに逃げたかった。どこにも逃げられないのなんて、分かっていても。

 石段を駆け下り、途中で苦しくなって、足を止める。


 ――苦しい。心臓が張り裂けそう。

 昭平はその様子に気付き、あおいを必死に追いかけた。