■


 やかましい声に居心地が悪くなったあおいは、一人でそっと彼らの輪を抜け出した。

 あおいがいなくなったのに気付いた昭平は、彼女を追いかける。


「おい、あおい待てって! じゃあ俺、もう行くから」


 あおいはひどい頭痛と目眩、それに吐き気を感じて、静かな場所を目指して歩いた。

 人混みが、気持ち悪い。

 屋台がある通りから外れ、近くにある神社の石段を上がると、だいぶ人の気配を感じなくなった。


 昭平は彼女を必死に追いかけ、石段の途中で座り込んだあおいの頭を撫でた。

 やはり顔色がよくない。


「外に連れ出すのは、無理しすぎたかな。そろそろ家に帰ろうか」


 しかしあおいは、その言葉を頑なにはね除ける。


「嫌だ」


 昭平は困り顔で彼女を見下ろす。


「……あおい」


「私、帰りたくない」


「我が儘言わないでくれ。困るよ」