「俺はいいけど……せっかくだから、家族でゆっくり過ごしたほうがいいんじゃないのか? あおいが夏祭りに行きたがっていたのは知っているが、夜は冷えるし、歩き回るのは心配だ」
「平気よ。普段だって、退屈な時は病院の中を歩き回っているんだもの」
「それは知ってる」
あおいは昭平の手を握ると、幼い子供のようにねだる。
「いいじゃない。私が行きたいんだもの。大丈夫、自分の身体のことは自分が一番よく分かっているから。絶対に無理はしない。辛いと思ったら、すぐ切り上げるから」
あおいは真剣な声音で付け加える。
「それに今を逃したら、今度夏祭りに行けるのがいつになるか分からないもの」
昭平はしばらく真面目な顔であおいのことを見つめていた。
やがて彼女の訴えに折れたのか、ゆるりと首を縦に引く。
「分かった。じゃあ一緒に夏祭り、行こう」
その言葉を聞き、あおいはほっとしたように唇をあげる。
「ありがとう、昭ちゃん」
「ただし、絶対に無理はするなよ」
「うん、もちろん!」
「じゃあ俺、今日は帰るよ。また時間とか、調べてから連絡するから」
「ありがとう」
昭平は小さく頷くと、病室から去って行った。背筋の伸びた堂々とした歩き方だ。
影でひっそりと二人の様子を見ていた愛梨は、感心して溜め息をついた。
「二人とも、お互いのことがよく分かってるって感じですね~」
別に隠れなくてもこの時間軸ではあおい以外に姿を見られることはないのだけれど、何となく邪魔をしてはいけないと思って隠れていた。
あおいははにかみながら言う。