「夏祭りの日に政木昭平さんと一緒に召し上がった、焼きそばと焼きとうもろこし、それにかき氷です」


 そう、あおいの前に置かれたのは、焼きそばと焼きとうもろこし、それにかき氷だ。

 料理店にはおおよそ相応しくない、というか屋台で出てくるようなラインナップだ。

 料理を食べるのが主たる目的の店でないにせよ、愛梨はこれでいいのかなと不安に思う。


 ずっと難しい顔をしていたあおいの表情が、くしゃりと歪んだ。

 泣くことも笑うことも出来なくて困っているような、複雑な表情だった。

 彼女は少しの間沈黙すると、薄く微笑んだ。


「すごいですね……本当に、私が戻りたい時間のことが分かるんですね」


あおいはしばらく料理を眺めたあと、一口一口大切そうに、ゆっくりととうもろこしを頬張った。

 とうもろこしの粒をシャクシャクと、ハムスターのように懸命に囓る。

 彼女はしばらく一生懸命とうもろこしを食べていたが、途中で困ったように眉を寄せる。


「あ、あの……これ、前に食べた時は、昭ちゃんと一緒で……」


 白露は小さく笑ってそれに答えた。


「あぁ、全部食べきれなかったら、一口ずつで平気です」

「そうですか。ごめんなさい」


 それから懐かしむように、焼きそばに箸を伸ばす。

 彼女は目を閉じ、納得したように小さく頷いた。


「お祭りの味がします」


 少し焼きそばを食べると、今度はプラスチックのストローでかき氷を口に運んだ。

 彼女は穏やかに、けれど泣きそうな声で呟く。


「おいしいけど、一人じゃ食べきれないな」


 最後にその言葉を聞いたのと同時に、あおいたちは眩い光の中に飲み込まれていった。