彼女は深刻な面持ちで白露に訴える。


「私は小学生の頃から、ずっと病院に入院しています。心臓の病気で、お医者様には高校生になるまで生きられないだろうと言われてきました」


 愛梨は緊張しながら、グラスに入った水をそっとあおいの前に置いた。

 この店に訪れる客は、皆強い思いを持っている。

 逆に言えば強い思いがないと、この店にはたどり着けない。

 やり直したい過去があるから、ここに自然と導かれる。

 その中でも彼女は、一際切羽詰まっているように見えた。


 白露は目を細めて彼女を見据えた。


「一つ最初に忠告させていただきますが、確かにこの店の料理を食べれば、過去に戻ることが出来ます。あなたの行動しだいでは、未来を変えられる」


 白露は一度言葉を切り、再び唇を動かす。


「ですが、当然この店にもルールはあります」


 あおいはじっと押し黙って、白露さんの話を聞いている。 


「人間の運命というのは、複雑に絡まった運命の糸のような物で成り立っています。とくに人の生き死にになると、絡まった糸は強固です。

もしあなたが過去をやり直したとしても、直接的に手を下して、生きるはずだった人間を殺したり、死ぬはずだった人間を死ななかったことにするのはほぼ不可能です。残念ながら、何度やり直したとしても、人の生死だけはおそらく変えられません。

それでもよろしいでしょうか?」


 真剣に話を聞いていたあおいは、一瞬寂しそうに微笑んだ。


「そうですか、やっぱりそこは変えられないんですね」

「申し訳ありませんが」


 あおいは大事な書類に印鑑を押すように、慎重に頷いた。


「それでも構いません。もう二度と会えなくなる前に……間に合わなくなる前に、どうしても。大切な人に、伝えたいことがあるんです」


 白露は何がそんなに嬉しいのかと聞きたくなるくらいにニコニコ笑うと、愛梨に合図をした。


「では、少々お待ちください」


 これはつまり、用意している料理を持って来いということだ。

 愛梨は急いでキッチンに飛んでいった。それから置かれていた皿を手に取り、これでいいのだろうか、と一瞬首をひねる。でも料理らしき物はこれしかない。


 料理の皿を盆に乗せ、白露とあおいが待っている席に戻った。

 愛梨が料理を席に置くと、白露が説明する。