「おや、珍しいお客様がいらっしゃいましたね」

「え? お客様ですか?」


 熱心に窓ガラスの拭き掃除をしていた愛梨は、その言葉を聞いて顔を上げる。

 本当だ、ちっとも気が付かなかった。 

いつの間にか店の入り口に、白いパジャマを着た女の子が立っているのが見えた。おそらく自分と同じくらいの年だ。高校生だろうか。


 しかしどうしてパジャマ姿なのだろう。

 身体の線が細く、とくに腕は頼りない。少し力を入れれば、ポキリと折れてしまいそうだ。

 儚げな雰囲気をまとった少女は、愛梨と目が合うとにこりと微笑んだ。


 わ、かわいい。白いワンピースが似合いそう。


「入っても、よろしいでしょうか?」


 声をかけられた愛梨は、弾かれたようにピンと背筋を伸ばし、急いで掃除道具を片付け、彼女にお辞儀をする。


「いらっしゃいませ、どうぞ中に入ってくださいっ!」


 退屈を持て余していた白露は、客の訪問にうきうきと立ち上がる。気付いた時には、ふさふさの尻尾と耳は消えていた。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、水瀬あおい様。こちらのお席にどうぞ」


 水瀬と呼ばれた少女は影のように音もなく店内を進み、椅子に座ると真剣な表情で問いかけた。


「この店に来たら、過去をやり直せるって聞いたんだけど、本当ですか?」


 愛梨はドキリとしながらあおいを見つめた。

 このお店がどういう所か、知りながら訪れる人が、ごく稀にいる。

 あおいはそういうタイプの人間だったようだ。一体どこでそんな噂を耳にするのだろう。


 白露はその言葉を肯定するように、薄く微笑んだ。とてもきれいだけど、相変わらずちっとも表情の読めない顔だ。


「はい。あなたが後悔している時間に戻れる料理を、お出ししています」