和田は目を白黒させた。

 咄嗟にポケットの中の携帯を確認したが、別段おかしいとは思わなかった。

 和田が園子にカップラーメンを出され、家を飛び出してからまだ一時間くらいしか経っていない。もちろん日付も変わっていない。


 セイウチは猛烈に怒りながら、和田のスーツをくしゃくしゃに揺さぶる。


「あんたはいつもいつも、あたしのことを待たせてばっかりで……!」


 セイウチにここまで激怒されたのは初めてかもしれない。和田はどうやって彼女の怒りを静めようか、あたふたしていた。

 その時。

 セイウチの――園子の瞳から、透明な雫が流れおちた。


「……園子?」


 園子は、泣いていた。


「もしかしてお前、俺のことを心配したのか?」

「当たり前でしょうが!」


 園子はぼろぼろと涙を流しながら、和田を怒鳴りつける。


「あの時もそうだった。レストランで待っていたのに、時間を過ぎても、いつまで経っても、あんたは来なくて……どこかで交通事故に遭ってたら、大怪我をしてたらって、不安でしかたなくて。私がどれだけ心細かったか」


 それを聞いた和田は、ぽんぽんと園子の肩を叩く。


「長い間、待たせてすまなかったなぁ」


 園子は少し意外そうな顔つきで、じっと和田を見つめる。


「あんた、何かあったの?」

「うん……そうだなぁ、色々あったんだ」