□ 



 和田が意識を取り戻すと、目の前には若い頃の園子も、キャンドルの灯ったレストランもなかった。

 板張りの天井を何となく眺めていると、黒髪の少女が自分の顔を覗き込んだ。


「お帰りなさい、和田さん」


 愛梨にそう言われ、白露庵に戻ってきたのだと認識する。

 近くに立っていた白露は少し冷めた表情で、意地の悪い声を出した。 


「おかえりなさいませ、和田様。一時の感情に流されて、結局以前と同じ未来を選ばれましたね。人間とは、失敗から何一つ学ばない生き物ですね」


 白露の言葉がぐさりと和田の胸に突き刺さる。


「どうして白露さんは、そういうことを言うんですかっ! 和田さんは、自分で園子さんといる未来を選んだんですよっ! 素敵じゃないですか!」


 愛梨は彼に噛みつくが、白露は飄々とした態度でそれを受け流す。


「だって和田様はセイウチに、もう何年も悩まされているんですよ。果たして一時の愛の力だけで、乗り越えられるものでしょうか?」