園子は驚きに目を見開く。


「色々考えていて、指輪を持ってくるのを忘れてしまいました。

俺は頼りなくて、情けなくて、この先園子さんを幸せに出来るか分かりません。園子さんは、こんな俺のことを、そのうち嫌になるかもしれません。

だけど……それでも、どんな未来があったとしても、やっぱり俺は園子さんと一緒にいたいです」


 気が付いたら、言葉が勝手に口からこぼれていた。

 涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃで、とてもドラマや映画のように、綺麗なプロポーズは出来なかった。

 もう二度と結婚などしないと思ったのに、結局答えは決まっていた。


 仕方ない。

 自分は何度時間を繰り返したところで、きっと同じ結果を選んでしまうのだろう。

 この先どんな風に変わってしまっても、今彼女を好きだと思う気持ちは、紛れもなく本物だから。


 園子は嬉しそうに微笑んで、和田の手を自分の額に当てる。


「ありがとうございます、嬉しいです。指輪も何もいりません。哲夫さんがいてくれればいいです。私でよければ、結婚してください」


 和田がほっとしていると、周囲からパチパチという拍手が聞こえる。

 二人がびっくりしながら立ち上がると、いつの間にか予約していたレストランのシェフとウエイターたちが、彼らを囲むように待っていた。


「えっ、えっ、あの……?」

「和田様、お待ちしておりました。よろしければ、今からお食事をどうぞ」