「園子さんは、俺のことを怒っているのかと思いました」


 園子はやわらかく微笑むと、話しだそうとして、言葉を詰まらせる。


「怒ってなんていないですよ、全然。そうじゃなくて……」


 園子の瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。


「哲夫さん、いつもは絶対に遅刻なんてしないから。もしかしたら、交通事故にあったのかもしれない、何か事件に巻き込まれたのかもしれないって、色々悪いことばっかり想像したら、怖くって」


 その涙につられ、気が付くと和田ももらい泣きしていた。


「遅れてすみませんでした」


 彼女はふるふると首を振る。


「哲夫さんが、無事でよかったです。来てくれてありがとうございます」


 和田はぎゅっと唇を結び、ポケットに手を入れる。

 それからはっとして動きを止めた。

 指輪の箱は入っていなかった。

 さっき机の上に置いたままだったのを思い出す。

 彼女に何も言わないのなら、このまま立ち去ればいい。


 だけど――。

 和田はその場に跪き、彼女の右手をぎゅっと握り締めて言う。


「園子さん、俺と結婚してください!」