和田が考え込んでいると、愛梨がさっきより必死に声を張り上げる。


「もし結婚しない未来を選ぶのだとしても、ちゃんと本人に話すべきです。でないと、絶対にわだかまりが残りますよ!」


 するとずっと黙っていた白露が、急ににこりと笑って呟いた。


「和田さんだけにね」


 それを聞いた愛梨は、目をつりあげて白露に怒鳴る。


「白露さんは余計なこと言わないで、黙っててください!」

「うわ、怖いですね」


 二人がくだらない言い合いをしているのを見た和田は、思わず笑ってしまう。

 愛梨はぽかんとした様子で、彼の笑い声を聞いていた。


「和田さん? どうかしましたか?」


 ひとしきり笑った後、和田は吹っ切れた表情で頷いた。


「そうですね。やっぱり私には、人を待たせるのは向いていないようです」


 それから和田は、背を丸めて凍えている園子の元へと走り出した。


「園子さん!」


 真っ白な雪面に、和田の足跡が刻まれていく。

 和田の声を聞いて、うつむいていた園子ははっとしたように顔を上げた。

 園子は和田の姿を見て、階段から立ち上がった。


「遅れてしまってすみませんでした。あの、俺は……」

「哲夫さんっ!」


 園子は自分の方へ走ってくる和田の方へと駆けだした。しかし途中で雪に足を取られ、つるりと転びそうになる。


「きゃっ……!」

「園子さん! 大丈夫ですか!?」


 和田は咄嗟に彼女の両手をつかんだ。

 和田に支えられて転ばずにすんだ園子は、照れくさそうに彼を見上げ、寒さで赤くなった顔を緩ませた。

 園子はそのままぺたんと地面の上に腰を下ろす。


「ごめんなさい。安心したら、力が抜けちゃった」


 和田も彼女の向かいに座り込んで、冷え切った彼女の手を両手でぎゅっと握り締めた。まるで氷のように冷たい。