閉店の時間が近づくにつれ、一人、また一人と客が帰っていく。
そしてとうとう店から他の客はいなくなり、最後に園子だけが取り残された。
ウエイターはせめて園子だけでも用意した料理を食べてはどうかとすすめるが、園子は申し訳なさそうにそれを断る。
やがて園子は何度もウエイターに謝りながら、店を出た。
ウエイターも残念そうに、彼女を見送り店の片付けを始める。
和田は園子に対して申し訳なさでいっぱいになった。
本当なら、今までひどい態度をとられた分、少し彼女に仕返しをしてやりたいという気持ちもあったのだ。
けれど今こうやって和田を待っている園子には、何の落ち度もない。
園子に恥ずかしい思いをさせ、気分は晴れるどころか、ただもやもやとした自己嫌悪が募っていくばかりだった。
店を予約した時に料理の料金を支払い済みだったことだけが、和田を少しほっとさせた。
レストランを出た園子は、途方に暮れた様子で暗くなった空を見上げた。手のひらを小さく広げ、空に向かって差し出す。
彼女のその動作で、和田は初めて雪が降っているのに気が付いた。
和田も同じように空を見上げ、そういえば昔彼女とこのレストランで食事をした時、窓から雪が降っているのが見えたなと思い出す。
白い粒が、少しずつ世界を銀色に染めていく。
風がふくと、細い針で全身をさされるような寒さを感じた。