二人の間に子供はいない。

 何年たっても子供を授からなかった。

 そのことは少し残念ではあったが、無理に原因を調べるつもりもなければ、治療をするつもりもなかった。夫婦二人の生活を楽しむのも悪くないという意見が一致し、最初の数年は絵に描いたような幸せな新婚生活がおくれた。

 朝の七時に起き、八時に家を出て、帰宅するのはだいたいいつも夜の十時すぎになる。

 自宅から駅までは自転車で移動だ。電車は片道一時間とちょっと、朝は満員電車に揺られ、仕事が終わるとへとへとになりながら帰宅する。

 雨が降ろうが台風がこようが記録的な積雪だろうが真夏日だろうが、月曜日から金曜日まで仕事だ。



 そんな自分に対して与えられた夕食は、カップラーメン一つだった。

 これがお前の存在価値だと言われたようで、どうしようもなくやりきれない気持ちになった。

 どうして自分ばかり、こんなに苦労しなければならないのだろう。



 和田は駅の駐輪場に自転車を止め、虚ろな表情で夜の街を歩きながら、強烈に何かうまいものが食べたいと思った。



 とにかく腹が減っていた。

 この空腹を、何かうまいもので満たしたい。食べ過ぎて動けなくなるくらいに。

 腹一杯おいしい料理を食べることで、胸にぽっかりと空いた穴を塞ぎたいと思った。



 いつもの習慣でチェーン店に入って牛丼を注文しようかと考え、別にそこまで節約する必要もないのだと気付く。

 セイウチからの小遣い制で和田の経済状況は困窮していたが、考えてみれば自分で稼いだ金だ。


 子供もいないし、金曜の夜、ちょっと豪勢な晩飯を食べたところで、誰が和田を責められるだろう。

 セイウチにバレたら怒られるような気はしたが、もはやどうでもよかった。


 ちなみに和田の名前は和田哲夫(てつお)、セイウチの名は和田園子という。