そこから先は、ひたすら忍耐の時間が続いた。
ああは言ったものの、和田だって園子のことが気にならないわけがない。
元々気が小さく、真面目な性格の男だ。約束を理由もなくすっぽかしたことなど、これまでに一度もない。それが彼女の誕生日とあらば、やはり罪悪感でそわそわしてしまう。
部屋にいたってやりたいことなどないし、漫画を読んだりテレビを見たりするが、ちっとも集中出来そうにない。気を紛らわすために無意味に掃除をしたりする。この行為は本当にまったく意味がない。もう二度とこの部屋に来ることはないのだから。
とはいえどうしてもチラチラと時計を確認してしまう。
約束の時間は六時。現在の時刻は、六時十五分。とっくに遅刻だ。
じりじりと過ごしていると、突然部屋の中に奇妙な電子音が鳴り響いた。
和田は驚いて音源を探す。
そしてその正体が携帯電話の着メロだということに気付いた。
現在の和田が持っているようなスマートフォンではなく、白黒のディスプレイの下にボタンがあってアンテナがついている、ストレートタイプの古い携帯電話だ。
そういえばこんなの使ってたなと思いながら、携帯を見つめる。
反射で思わず通話ボタンを押してしまいそうになる。しばらく待っていると着信は途切れたが、また数分経つと、電話が鳴り響いた。
近くにいた愛梨が和田に声をかける。
「和田さん、電話に出なくていいんですか!?」
「声を聞いたら、気持ちが変わりそうなので」