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 二十代の和田が住んでいたのは、駅から十分くらいの場所にあるワンルームの小さなアパートだ。古めかしくてあまりきれいではないが、この時期は仕事が忙しく、家にいる時間はただ寝ているだけだったので特に不便だと思わなかった。


 当時の部屋の様子を懐かしく思いながらきょろきょろしていると、部屋までついてきた白露に問われる。

 狭いワンルームの部屋に着物姿の男と女子高生が立っているのは、違和感が凄かった。


「日曜日の夜、奥様と約束されているのですね」

「はい、一緒にレストランに行く予定なので」


 白露は鋭い瞳で和田のことを見据える。


「念のため確認ですが、和田様はプロポーズをしないよう過去をかえるために、ここにやって来たのですよね?」


 和田は何だか居心地が悪くなって、あぐらをかいていた足をもぞもぞとさせる。


「そ、それは……もちろん、そのつもりで来ましたが……」

「おや? 心境の変化がありましたか?」


 ここに来る直前までは、もちろんそのつもりだった。

 妻とはもう絶対に結婚しない。自分は独身貴族を貫き、自由を謳歌するのだ。


 そう考えていたのだが、実際に若い時の園子を目の当たりにして、決意が揺らいだのも事実だった。

 和田の煮えきれない態度を見て、白露は意地の悪そうな声で言う。


「なるほど、優しくしてから思い切り叩き落とすおつもりなのですね。和田様も、なかなか鬼畜でいらっしゃいます」