園子は公園の景色を眺めながら、最近あった出来事を嬉しそうに話してくれる。
ほんの日常の報告だが、それでもただ相づちを打っているだけで和田は幸せな気持ちになった。今の彼女の話なら、何時間だって聞けそうだと思う。
ボートを降りるとベンチに戻り、缶コーヒーを買って二人で飲んだ。
どうせならどこかのカフェでも入れればいいと思ったが、確かこの日はあまり時間がなかったのだ。
園子は夜友人と出かけるとかで、一時間ほどしか公園にいられなかった。それでもわざわざ会いに来てくれた。どんなに短い時間でも、少しでも和田と会えるなら嬉しい。この時の園子は、きっとそう考えていたから自分に会いに来てくれたのだろう。何て優しいのだろう。セイウチと同じ生き物だとは思えない。
他愛ない会話が途切れると、園子は名残惜しそうに腕時計に目をやった。
「ごめんなさい哲夫さん、私そろそろ行かないと。私から誘ったのに、少ししかいられなくてすみません」
「いえいえ、今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」
そんなことを話しながら、二人で駅に向かって歩く。
駅の改札に到着すると、園子は和田に問いかけた。
「それでは、今度の約束は日曜日の夜ですよね?」
日曜日の夜は、彼女の誕生日。プロポーズの当日だ。
「はい、よろしくお願いします」
ニコニコした顔で手を振りながら駅の階段を降りて行く園子を見送る。
そして和田は、いつの間にか自分の目から涙があふれているのに気付く。
愛梨はぎょっとしながら、和田に自分のハンカチを差し出した。
「和田さん、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
「か、かわいかった……」
和田はめそめそと泣きじゃくりながら、流れる涙をハンカチで拭う。