和田はトイレから出て、のんびりと公園を歩いてみた。

 会社から少し歩いた場所にある公園だ。入社した当時は、よくここに昼を食べに来ていた。

 園子にプロポーズしたのは、冬のボーナスが振り込まれてすぐだった。交際から三年あまりの時間が経過していた。緊張しながら百貨店に指輪を買いに行ったのをよく覚えている。


「全部が懐かしいなぁ。あの頃の上司も、今は退職してもういないんだよなぁ。元気にしてるかなぁ」


 季節は冬だ。

 レストランでフレンチを食べ、プロポーズしたのは十二月十五日。 

 妻の誕生日に合わせてプロポーズしたので、間違いない。

 和田がしんみりとしていると、白露が笑みを浮かべて声をかける。


「思い出に浸るのもいいですが、どうやら今日は奥様と約束をしている日らしいですよ」


それを聞いた和田は、しゃきっと背筋を伸ばす。


「えっ、妻と約束ですか!?」

「そうです。デートをなさったらいいじゃないですか」


 和田は途端に困惑した様子になる。


「そんな、妻と二人で出かけるなんて、もう何年もしてないですよ。それどころか最近は目を合わせるのも嫌みたいだし。洗濯物も分けられるし。ちょっと心の準備が……そもそも私は、妻にプロポーズするのをやめるためにここに来たんですよ?」


 白露は扇子でペシペシと和田の肩を叩く。


「まぁまぁ、まだプロポーズする時まで時間がありますから。それまでの間は、楽しんだらいいじゃないですか。こんな機会、めったにありませんよ」


 和田がもごもごしていると、少し離れた場所から彼の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「哲夫さーん!」