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そして愛梨は高校生になり、駅前でその男の姿を見つけた。
愛梨は他の人間には存在を気付かれていない、自分だけが見える彼の姿を、懐かしいと思う。
そうだ。
私、は。
あの時から、ずっと誰かに、いつも見守られていた。
――誰に?
「私、あなたとどこかで会ったことがありますか?」
いつだっただろう。確かに昔、こんな風に見つめられたことがあったのに。
必死に記憶を辿ると、奥底に眠っていた鍵の掛けられた扉が、軋む音を立てて開いた気がした。
「あなたの名前を、教えてください」
男は長い睫毛を伏せ、笑いながら言った。
「私は白露です」
「……白露さん」
男は柔らかく微笑み、小さく呟いた。
「私のことが見えますか。狐花送りが、近いからでしょうか」
「白露さんっ!」
名前を呼ぶと、瞳から涙が零れた。
そうだ、白露さんが。
柔らかな眼差しが、金色の瞳が。白露さんが、ずっと私を見守ってくれていたんだ。
彼と何があったのかは、やっぱり思い出すことは出来なかった。
それでもここで彼を見失ったら、もう二度と会えないという確信があった。
愛梨は彼の着物の袖をつかみ、唇を動かす。
はくはくと、音にならない空気だけがこぼれる。
声が出ない。
伝えたいことはいくらでもあるのに、言葉にならない。
そんな愛梨を見て、白露は目を細めた。
「ここで会ったのも何かの縁。私の店で働いてみますか?」