「りゅーちゃんに乱暴なことしないで!」

「うるせぇ、黙ってろクソガキ!」


 ほとんど無意識での行動だった。

 愛梨は長身の男に飛びかかり、男の腕に思いきり噛みつく。


「てめぇ、何しやがる!」


 バシッと弾けた音がする。

 頬を平手で殴られたのだと分かり、涙が噴き出しそうになった。

 それでも愛梨は男の腕に噛みついたままだった。

 絶対に離さない。今離したら、間違いなく青龍は酷い目に合う。


「くそっ、いい加減にしろよ! 動物か。おい、ぼさっと見てないでこいつを捕まえろ!」


 もう一人の男が、怯えた表情で愛梨を捕まえようとする。

 愛梨は手をめちゃくちゃに振り回してもがき、大声で白露の名前を叫ぶ。


「白露さん、白露さん、白露さんっ!」

「デカイ声出すんじゃねぇ!」


 再び長身の男の手が振り上げられ、バシッと頬を殴られた。

 その衝撃で、愛梨は後ろに突き飛ばされる。


 ふわりと身体が宙に浮く。

 落ちると思った時には、もう体制を立て直せなかった。 

 愛梨は土煙をあげながら崖のようになった山面を、下まで一瞬で転がり落ちていく。


「や、やべぇっておい……」


 青龍は力が抜けた男の手から、するりと抜け出した。


「きゅっ!」


 半ば落下するように浮遊しながら、青龍は愛梨の元へと飛び上がる。

 そして崖下で頭から血を流して倒れている愛梨を発見し、山全体に響き渡るような、鋭い鳴き声をあげた。