「神様になると、どうなるの?」

「天上でやんごとなく暮らせるらしいですよ」

「そっかぁ……きっと神様が行くなら、楽しいところなんだろうね」

「そうでしょうね。それが私たちの長年の夢でもありますから」


 愛梨は白露がこの山からいなくなってしまうことを想像する。

 しかし上手く思い浮かべることが出来なかった。

 愛梨にとって、この山に通うことは、白露に会うことと同義だった。


 どうしてだか、彼はずっと自分と一緒にいてくれるような気がしていた。

 突然置いてけぼりにされたようで、無性に寂しくなった。

 愛梨の瞳から、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。


「こら、何を泣いているんですか」

「そっかぁ……そっかぁ……でも愛梨は、白露さんに会えなくなっちゃうの、嫌だなぁ」


 ごしごしと強く目蓋を擦っても、涙を止めることは出来なかった。

 おそらくとてもいいことなのだ。

 千年の間修行を積んで、神になる。どんなに大変なことか。だから祝うべきだと思うのに、愛梨は悲しくて仕方なかった。

 そんな愛梨の姿を見て、白露は珍しく優しい笑みを浮かべた。

 自分に優しく笑いかける白露を見て、愛梨は心臓が止まりそうになる。


「大丈夫です。きっと私のことなど、すぐに忘れます」

「忘れないよぉ……! 愛梨、白露さんのことは絶対に忘れないもん。会えなくなっても、見えなくなっても、白露さんのことはずっと忘れないよ!」


 愛梨は白露の腰にぎゅっと抱きついた。

 このままずっと白露さんのことを捕まえていたら、どこにも行かないでずっとここにいてくれないかな。

 無理だと分かっていながらも、愛梨は強く願った。