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白露と青龍の子供と出会ってから、そして三人の友達が出来てから、愛梨は山へ通うのがますます楽しくなった。
いつものように弁当の入ったリュックを背負って、山へと登る。
今日も快晴だ。蝉の鳴き声がやかましくて、少しげんなりする。
眩い太陽を眺めながら、愛梨は額の汗を拭う。
こんな風に楽しい毎日が、永遠に続けばいい。
けれど、永遠の時などないことを知っている。
もうすぐ夏休みが終わる。
そうなっても、愛梨は特に何が変わるわけではないと思っていた。
秋になり、蝉が鳴かなくなってこの森が紅葉で茜色に染まっても、毎日白露と青龍に会いに来るつもりだった。
しかし今日の白露は、いつもと様子が違った。
緊張感があるというか、ピリピリしている。まるで全身に電気が走っているみたいに、触るとビリッと痺れそうだ。
「白露さん、どうしたの?」
最初は自分が白露を怒らせるようなことをしたのかと、どきどきした。
しかし様子を見ているうちに、彼が少し寂しげな表情なのに気付く。
「弁当を持ってくるのは、今日で最後でいいです。それからもう、ここにも来なくていいです」
「えっ!? 何で!?」
突然突き放すようなことを言われ、愛梨は泣き出しそうになった。
「小娘。私はあと数日でここからいなくなってしまいます。だからあなたは、あなたの友人と遊びなさい」
告げられた言葉に、愛梨は頭が真っ白になった。
「……え? 白露さん、いなくなっちゃうの?」
たとえ季節が変わり、冬になってこの山が白く染まろうとも、春になって桜が咲き乱れても、白露はずっとここにいるのだと、漠然とそう思い込んでいた。
だって狐のあやかしは、とても長生きだと言っていたのだから。
「ここは白露さんの土地なんでしょ? 白露さんはずっとここにいるんじゃないの?」
白露は風に深紫の羽織をはためかせ、空を仰ぐ。
「狐花送りの日、私は神になるのです」
彼の銀色の長い髪も、風に靡いている。
どこかから、チリンと鈴の音が聞こえた気がした。
「そっか、来週がお祭りなんだよね」
去年は引っ越してきたばかりなので参加出来なかったが、祭りの日になると、狐のお面をつけた人々が行列を作る。去年初めてそれを見た愛梨は、狐のお面を怖がって、少し泣いてしまった。
それでも今年はあの行列に自分も混じれるのだと考えて、わくわくしていた。
花の形をした灯籠に炎が灯り、いくつもいくつも川を流れていく光景は、幻想的で美しかった。
あの祭りが神聖な意味を持つのだろうとは感じていたが、白露にも深く関わっていたようだ。