青龍のことを広めるなど、本当はやめた方がいいに決まっている。通常人間には見えないものなのだ。よからぬことを考える輩も出てくるだろう。

 自分の力が満ちている時ならそれくらいどうとでもなるが、今は弱っていて、平時の力の半分も出せない。災いの芽は早々に摘んでおくべきだ。


 そんな考えとは裏腹に、白露は愛梨が他の子供と青龍が接触しようとするのを止めなかった。

 愛梨以外の人間が青龍の姿を見られるのも、狐花送りまでのたった数日だ。

 それに、何より――。


「そ、そう? みんな、仲良く遊べるかな?」


 愛梨の頬がパッと赤らみ、瞳はキラキラと輝く。

 白露はどうしても、彼女の楽しそうな様子に水をさす気になれなかった。


「誘ってみればいいじゃないですか」


 愛梨は満面の笑みで頷くと、彼女たちがいた方へと駆けだした。

 その後ろ姿を見た白露は、どうしてだか少し複雑な気持ちになった。



 その日から愛梨には、山で遊ぶ友達がさらに増えた。


「それでね、三人はみさきちゃんとまいちゃんとゆみちゃんでね、りゅーちゃんとも仲良くなったの! 今まで愛梨が嘘つきって言ったことも、謝ってくれて、夏休みが終わる前に、みんなで一緒にプールに行こうって!」


 愛梨ははしゃいでいた。

 嬉しくて嬉しくて、久しぶりに出来た新しい友達のことを報告するが、白露は不機嫌そうにあぐらをかき、そっぽを向いている。


「白露さん? 何か怒ってる?」

「別に怒っていませんよ」



 愛梨が顔を覗き込もうとすると、彼は扇子で口元を隠し、金色の瞳を冷たく光らせる。


 ――ついこの間までは、「愛梨には白露さんがいるからいいや」なんて言っていたのに。人間とは、何と移ろいやすい生き物か。


「おーい、白露さん?」


 何度か名前を呼ばれた白露は自分の考えに違和感を覚え、はっとする。

 小娘に友達が出来ようと、それが私に何の関係がある。

 白露は咳払いをすると、冷静な口調で言う。


「別にそんな話は興味がありません」


 愛梨は嬉しそうに口を開け、ニコニコと返事をする。 


「白露さん、もしかして寂しいの?」


 愛梨が妙に楽しそうなのが気に食わず、白露は彼女の額に思い切りデコピンをぶつけた。


「痛っ!」