竹林の中にあるほこらの近くには、着物を着た白露が佇んでいた。
母親の言いつけを破った後ろめたさが、少しある。
でも白露さんがいるから、大丈夫だよね。
愛梨は大きく手を振りながら、白露の元に走って行った。
「はい、今日もお弁当!」
白露は嬉々とした様子で弁当箱を受け取ると、おにぎりにかぶりついた。
「ふむ、梅干しですね。酸っぱくていい塩梅です」
「それから、ツナマヨもあります」
ツナマヨを食べたのは初めてらしく、白露は不思議そうに具を眺めている。
「面妖な……これは魚ですか?」
「うん、ツナは……魚のはず……えっと、何だったかな……? うーん……何かのお魚です!」
「同じこと二回言ってるだけじゃないですか。ふむ、こってりとしたマヨネーズとさっぱりした味わいがくせになりますね。しかしこのマヨネーズというのは、何でもマヨネーズの味にしてしまう」
白露は卵焼きを頬張りながら、うんうんと頷いた。
「弁当の卵焼きというのは、何度食べても飽きない。今日は甘い味ですね。塩辛いのも甘いのもどちらも美味です」
「そうでしょ? それに今日の卵焼きは、愛梨が作ったんだよ!」
今日の朝は早起きして、弁当作りを手伝わせてもらったのだ。
白露は感心したように頷いてから、問いかけた。
「でも本当はあなたの母親がほとんどやったのでしょう?」
「違うよー! ちゃんと愛梨が卵を割りました! 焼きました! 巻きました!」
弁当を食べ終わると、愛梨は白露と一緒に竹林の周りを歩いた。近くには川が流れている。この川は町の方までずっと続いていて、辿っていくとやがて大きな川と合流している。
愛梨ははいていたサンダルを脱いで、川に足をつけて涼んでいた。
今日も気温は四十度近くまで上がっている。山は木々があるから直射日光が遮られて多少涼しく感じるとはいえ、毎日毎日暑くてたまらない。
愛梨が水遊びをしていると、近くからキュウキュウと、何かの動物の鳴き声が聞こえた。
この山は自然が多いから、色々な動物がいる。
うさぎや鳥はもちろん、たまにアライグマやハクビシンなんてものもいるそうだ。
愛梨は何の動物がいるのだろうと、声の主を探した。
耳をすますと、やはり近くから声がする。
その時川のほとりで、何か細長いものがにゅるんと跳ね、水しぶきをあげた。
自然界では珍しい、鮮やかな青。それに細く長い身体。
「へ、へびっ!?」