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 再び目を見開いた時、鏡華は白露庵に戻っていた。

 鏡華がぼぅっとしていると、愛梨が心配そうに顔を覗き込んでくる。 


「鏡華さん、大丈夫ですか?」

「……戻ってきたのね」


 鏡華は顔にかかった髪の毛をかきあげ、ぽそりと呟く。


「ひかりに負けたから、過去に戻った意味がないって思ったけど……」

「満足出来ませんでしたか?」


 しゅんとした様子の愛梨に、鏡華は不敵に笑いかけた。


「ううん。何も変わってないようで、色々変わった気がする」

「鏡華さん! よかったです!」


 鏡華は満足そうに目を細めた。


「ありがとう。あんたのおかげで、その……これからも、頑張れそうよ」 

「はいっ! 私、鏡華さんのこと、ずっと応援しています!」


 鏡華は胸を張り、堂々とした姿で店を出て行った。

 愛梨は彼女が成長したのを目にし、嬉しさでいっぱいになった。

 きっと鏡華さんは、これからもっと素敵なバレリーナになる。そう考えると、思わず顔がほころんだ。

 鏡華の背中を見送る白露が、光の玉をつまみ上げ、満足げに口に運んだ。



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 それから数年後、愛梨は何となく見ていたテレビ番組で、ひかりと鏡華の姿を目にすることになる。

 彼女たちが二人とも、日本を代表する世界的なバレリーナとして活躍していると知るのは、もう少しだけ先の話だ。