「恋愛関係で悩んでご来店されるお客様は多いですよ。たとえば彼とケンカをする前に戻りたいだとか、告白できずに学校を卒業してしまったのをやり直したいとか」


 白露はすっと目を細め、和田に微笑みかけた。色気だけで人を殺せそうな笑顔だった。


「和田様の願いは何でしょう?」

「私の、願い……」


 おとぎ話ではあるまいし、そんなうまい話があるわけない。

 けれどこの店の雰囲気と、白露という不思議な男の声を聞いているうちに、もしかしたら、と思ってしまう。


 和田ははっとして、思わず椅子から立ち上がった。


「もし、本当に過去に戻れるなら……だとしたら、妻にプロポーズした日に……あの日に戻りたいです。この料理を、二人で食べた日に」


 それを聞いた愛梨は、何を勘違いしたのかニコニコと笑って声を弾ませる。


「プロポーズをやり直すのですね!? 素敵ですね、以前もそういうお客様、いらっしゃいましたよ! 上手にプロポーズ出来なかったから、もう一度完璧な思い出にしたいって」


 無邪気に笑顔を向ける愛梨に申し訳ないと思ったが、和田はきっぱりと言い切った。


「いえ、プロポーズ、しません」


「えっ!? しないってどういうことですか!?」