一生後悔していた。


 そうだろう。

 ひかりにケガをさせて、それで勝ったとしても、きっと後悔しただろう。

 負けても勝っても、自分はきっと後悔することになる。


「……そうね、最初から分かってた」


鏡華の脳裏に、いつも隣で踊っていたひかりの姿が浮かぶ。

 毎日通うレッスン室で、ひかりは常に鏡華の隣にいた。

 たとえ会話がなくても、鏡華がどんなに素っ気なく接しようと、ひかりは鏡華に対して、裏のない笑顔で微笑んでいた。


「ひかりの踊りの素晴らしさを世界で一番知ってるのは、ずっとあいつの一番近くで練習してきた、あたしだから」


 言葉にした瞬間、ぼろっと涙が零れた。


 ひかりが大嫌いだった。

 そう思う反面、彼女の放つ輝きに、ひどく憧れた。


 自分にはきっと、一生無理だと思ったから。

 あんな風に純粋に、バレエの神様に愛されたような踊りを、自分もしてみたかった。


「やっぱりバレエを愛する人間として、無理だったよ。だって、ひかりは天才だもん。あんな大怪我してるのに、今までで一番完成度の高い演技だった。

これからもっとたくさんの人に、世界中の人に、ひかりのバレエの素晴らしさを、見て欲しい。あたしじゃダメなんだ。あたしじゃ、あんな風になれない。だから、邪魔なんて出来なかったよ……」


 次々と涙が零れて、苦しくて、最後はうまく言葉にならなかった。

 愛梨は鏡華のことをぎゅっと抱きしめる。

 いつも強気で自信ありげに見えた鏡華の姿は、こうして見るととても小さい。


「頑張りましたね、鏡華さん。私、鏡華さんのバレエが一番好きです。だから、諦めないでください。続けてくださいね、バレエ」


 それを聞き、鏡華は眉をつりあげて言い返す。


「あったり前でしょ!? 今回は勝ちを譲ったけど、諦めるわけないっ! 次は絶対実力で倒す!」


 そう言ってから二人で顔を見合わせ、思わず声をたてて笑ってしまった。



 ひとしきり涙を流すと、鏡華は幾分さっぱりしたらしい。顔を拭って、勢い良く立ち上がった。


「さ、こんなとこで泣いててもしょうがないし、そろそろ戻らないと。一応インタビューか何かあったはずだから」