表彰式が終わると、鏡華は廊下にあるソファに腰を下ろした。準優勝のトロフィーを虚ろな瞳で見つめながら、魂が抜けたように呟く。


「結局何も変わらなかった」


 愛梨は少し離れた場所で、彼女を気遣うように声をかける。


「私、鏡華さんは最初からひかりさんの邪魔なんてしないって思っていました」

「……そんな度胸がないから?」

「違います! 鏡華さんは、プライドを持ってるからです!」


 鏡華は髪の毛をかきむしり、声を荒げる。


「プライドなんて、よく言えるわね。あたしのしようとしたこと、知ってるくせに」

「でも、結局何もしなかったじゃないですか! 出来るわけないです! だって鏡華さん、バレエが大好きだから!」

「やめてよ、あたしが一番になれないって分かってるくせに!」

「鏡華さんの踊りは、ひかりさんとは違う輝きがあります!」


 その言葉に、鏡華は言葉を失う。

 愛梨は思っていることがうまく言えず、けれど必死に言葉を探した。 


「私、バレエのことはよく分からないですけど……ひかりさんの演技にはひかりさんの、鏡華さんの演技には鏡華さんの良さがあると思います! 比べなくたって、どっちも素敵だと思います! 私は鏡華さんのバレエ、大好きです!」


 あまりに真っ直ぐで、愚直と言ってもいいほど必死な言葉に、胸がつまる。


「……バカじゃないの? あんたなんか、何にも知らないくせに」

「鏡華さんが頑張っていたのは知ってます!」

「頑張ってるなんて、当然じゃない! みんな頑張ってるに決まってるでしょ!? 頑張ってる人間がみんな努力賞貰えるような世界じゃないのよ! 一番じゃないと、意味ないの!」

「私は鏡華さんがやったこと、意味がなくなんてないと思います! 今回は準優勝だったけど、全部、次に繋がってると思いますっ!」


 懸命に訴えてから、愛梨は少し声のトーンを落とす。


「だから、よかったって思って……きっとひかりさんに何かしていたら。そうしたら鏡華さん、一生後悔していましたよ」


 鏡華は痛いところを突かれ、目を伏せる。