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時間の流れは一瞬で、どんなに嘆いても待ってはくれない。
なんて言いながら、遡って来てしまったけれど。とにかくこれが最後のチャンスだ。
あっという間にコンクール当日。泣いても笑っても今日で全部終わり。
鏡華のコンディションはどうかというと――絶不調である。
色々考えすぎて、踊りに集中するどころの騒ぎではない。
鏡華はプルプルと頭を振った。
いやいや、せっかくまたとない機会を手にして過去に戻って来たのに、前回より悪い順位になったんじゃ話にならない。
とりあえずひかりのことは頭から追い出して、自分の演技に集中しないと。
そう考えると、胃がキリキリと痛んだ。
その様子を見ていた愛梨も、心配そうに鏡華の背中をさする。
「鏡華さん、大丈夫ですか? 体調悪いんですか?」
「平気よ。いざとなったら持って来た胃薬飲むし」
鏡華がポーチをひっくり返すと、中から白い錠剤がたくさん飛び出してきた。
「ずいぶんいっぱい薬があるんですね?」
「といってもサプリメントと胃薬と、あと夜眠れない時の睡眠薬くらいだけよ。念のために持ってるだけ。今は飲まなくても大丈夫」
そう言いながら鏡華は薬をポーチに戻した。
白露はひどく楽しそうに扇子を扇いでいる。
「おや、鏡華さんいつも威勢がいいのに今日は胃が悪いんですか? それはお気の毒ですねぇ」
気の毒でも何でもない口調でそう言い放つ。
鏡華はギラリとした目で白露を睨みつけた。
「あいつ、全部終わったらしばきたおしてもいい?」
愛梨は快く許可を出す。
「はいっ、どうぞやっちゃってください!」
「アホなこと言ってないで、最終確認しないと」