鏡華は白露の言葉を、何度も何度も頭の中で反芻させた。
「以前と同一って、それってつまり……」
「そうです。ひかりさんは、大会の前日の練習中、ケガをしていたということです」
鏡華は目を見開き、悲鳴のように叫んだ。
「嘘でしょ!? まさかあいつ、この足の状態でコンクールに出ていたの!?」
そんなの信じられない。
ただでさえ、難易度の高いバリエーションだ。万全の状態で挑んでも、成功するかどうか。
なのに誰にもケガを気付かれずに、それを隠しきり、コンクール当日は完璧な演技を披露して、優勝した?
鏡華は全身がぞわりと粟立つのを感じた。
どうしてそんなことが出来るの?
コンクール当日も、ひかりは本物の妖精のようだと賞賛を浴びていた。
だけどひかりが本当にケガを負った状態で、それを成し遂げたのだとしたら。
鏡華はとても、妖精だなんてかわいらしいものだとは思えなかった。
むしろ、化け物みたいじゃないか――。
普通の人間にそんなことが出来るとは、到底考えられない。
鏡華が青ざめていると、いつの間にかひかりの視線が自分のことを突き刺していた。
心臓がドクリと高鳴る。
鏡華は弾かれたように顔を上げ、レッスン室の扉を開いてひかりの元へ駆け寄る。
「ひかり、大丈夫? 今の転び方、普通じゃなかった。骨が折れてるかもしれない」
「あはは、転んじゃった。私よく転んじゃうんだよねぇ。鏡華ちゃん、今日は個人レッスン室を使うんじゃなかったの?」
「気が変わったのよ。それより足は……?」
そう言いかけて、鏡華は床をじっと見つめる。
するとレッスン室の床の一部に、透明な液体がこぼれているのを発見する。
「床が濡れてる? 何よこれ……!」
ひかりは辛そうな顔で笑いながら、いつもの口調でのほほんと説明する。
「昨日、整備点検があったんだっけ? それでこの部屋を使った人が、何か飲み物とかこぼしたのかもー」
ひかりにしては不自然な転び方だと思ったのだ。
レッスン室に水がこぼれていたから、ひかりはそれに足を取られて転倒した。
鏡華は眉をつりあげて叫ぶ。
「ふざけるなっ! 今すぐ業者に電話して、責任取らせてやるっ! 絶対許せない……!
そうだ、それよりすぐに医者に連絡しないと!」
携帯を取りに部屋から出て行こうとした鏡華を、ひかりが必死に引き留める。
「待って! 鏡華ちゃん、誰にも言わないで!」
「……は? 何言ってるの?」