ロッカーに入ったいた、あのピンク色の愛らしい衣装を着て踊れば、ひかりはますます華やかになるだろう。

 どうやってあんなのに勝てばいいのか。鏡華は窮地に追いつめられた気持ちでひかりを見ていた。


 ひかりがダンスの最後にターンを決めようとした、その瞬間だった。

 ダンッ、と激しい音が廊下まで響く。

 気が付いた時には、ひかりは大きくバランスを崩し、転倒していた。


 鏡華は驚いて息をのむ。

 愛梨が戸惑った表情で、鏡華のことを見つめている。


「鏡華さん、ひかりさんが!」


 違う、あたしはまだ何もしてない!


 思わずそんな言い訳がもれそうになった。

 鏡華は身動きが取れず、その場で硬直していた。

 ひかりは辛そうに右の足首を押さえている。バーにつかまり、立ち上がろうとして――右足が床に触れた瞬間、また苦痛に顔を歪め、その場にうずくまった。


 鏡華は困惑しながら白露に質問をぶつける。


「どういうこと!? ひかりはどうしてケガをしたの!?」


 白露は冷静な声でそれに答えた。


「ひかりさんがケガをしたことを、知らなかったのですか?」

「知らない! コンクールの時はそんな様子、全然なかったもの!」

「鏡華さんはコンクールの前日のこの時間帯、本来なら何をしていましたか?」

「本来なら? 前回の時は、個室に籠もって練習してたけど」

「でしたら鏡華さんは、本当ならこの時間ひかりさんを見ていないはずですから、知らないのは当然です。けれど時間軸は、基本的に以前と同一のままに進んでいます」