□


 寮に戻ってからは特別なこともなさそうだったので、白露と愛梨は翌日の朝まで時間を飛ばした。

 翌朝、今日もひかりは朝早くからレッスン室で練習をしていた。


 そして、普段とは違うことが一つ。

 今日はコンクールの前日なので、本番用の衣装を着て練習をする授業がある。

 鏡華はいつものように、最初にロッカールームに向かった。周囲に誰もいないのを確認し、ひかりのロッカーを開いてみる。

 彼女がいつもロッカーに鍵などかけていないのは知っていた。

 本番用の衣装も、畳まれてそのまま中に置かれている。

 不用心にもほどがある。


 鏡華はひかりのトゥシューズを手に取り、無言で見つめる。

 突然背後から、何かぞわりとする気配を感じた。

 驚いて振り返ると、白露が真後ろに立っていた。

 白露は笑っていたが、その表情の冷たさに、全身が凍り付く。


「靴に細工をするなら、今ですね」


 それを聞いた愛梨が、焦ったように問いかけてくる。


「鏡華さん、本当にいいんですか?」

「……いいに決まってるでしょ。そのためにここに来たのよ」

「でも鏡華さんは、今まで一生懸命練習していたじゃないですか。だから、その、細工なんてしないで、もっと……」


 心配そうな様子の愛梨を振り払い、鏡華は声を荒げる。


「うるさいわね! それでも勝てないのよ!」


 握っていたシューズを床に投げ捨て、鏡華は叫んだ。


「あたしがどれだけ苦しい思いをして、足がちぎれるほど練習したって、ひかりには勝てないのよ! こうするしかないじゃない!」

「鏡華さん……」