「あたしは紅茶でい……」


 紅茶を注文しようとした鏡華を遮り、ひかりがよく通る声で元気よく言った。


「すみませーん、季節限定フルーツ盛り合わせパフェ二つお願いします!」

「ちょっと!」

「えっ、ダメだった? ごめん、でもこれ期間限定で、来週にはなくなっちゃうんだって。初めて見た時から、どうしても食べてみたくって」

「一人で食べればいいでしょ!?」

「だってせっかく鏡華ちゃんと一緒にいるから、二人で食べたほうがおいしいかなって」

「この時期に、人に甘いものすすめるなんて」


 店員がその様子を見て、注文を通していいのかどうか迷っている。

 ひかりは指摘されたことなどやはり考えたこともなかったようで、しゅんと肩を落とした。


「そ、そっか、ごめんね無神経だったね。明後日もうコンクールだもんね。あ、私二つ食べられるから、大丈夫だよ!」


 前回も思ったが、本気で言っているのかこいつは。どうやら本気のようだった。


「いいわよ、しょうがないからあたしも食べる」


 その言葉を聞いて、店員はほっとしたようにオーダーを受けて去って行った。


「ありがとう! 鏡華ちゃんって、やっぱり優しいね」


 ひかりは何の裏もない表情で、ニコニコ笑っている。

 こいつのこういう所が、本当に嫌いだと思う。

 天真爛漫と言えば聞こえはいいけれど、要はただ鈍感なんじゃないか。


 注文を待つ間、鏡華は自分から話そうとはしなかった。

 店内では昔流行ったアイドルの曲が流れていた。

 雨はさっきより弱まってきたものの、まだ降り続けている。

 ひかりは鏡華が黙っていても気にならないらしく、一人でへらへら話している。


「あのさ、今まで毎日朝から晩まで一緒に練習してるのに、鏡華ちゃんとあんまり話したことなかったよね、って思って」

「そうね」