ただのフランス料理なら、和田もここまで驚かなかっただろう。

 愛梨はさらにアンチョビのピッツァとじゃがいものビシソワーズ、それにサーロインステーキを机に並べていく。


「本来なら前菜から順番にお出しするのが正しいのですが、事情があって一度に並べさせていただきました」


 品数が揃うと、さらに確信が生まれる。

 和田はごくりと唾をのみこみ、白露に問うた。


「これ、私が妻に……」


 白露は満足気に目を細め、ゆっくりと頷く。


「そうです。これはあなたが奥様にプロポーズされた時に食べた、フレンチのコースでございます」


 穏やかな笑顔でそう話す白露を見て、和田は背中にぞっと寒気が走るのを感じた。

 さっき話した通り、これは和田が妻にプロポーズした時に食べた、フランス料理だった。当時のメニューとまったく遜色ない料理が机に並んでいる。


 ――間違いない。調べられている。

 誰が? 何のために?

 自分のような、大して金も持っていない平凡な会社員のことを調べてどうするつもりなのだろうか。


 和田は緊張と焦りで震えた。


「あの、何が目的なんですか。私に、たいした財産はありません。脅迫しても、出せる物なんて何一つありませんよ。金目の物も持っていません」


 自由に使える金は、月一万五千円です。

 余計なことまで口にしそうになった。


 和田が怯えている様子に気付いたのか、愛梨が明るい声を出す。


「あの、大丈夫です!」

「え?」