「ねぇ、雨がやむまでそこのカフェでお茶でもしない? 通り雨みたいだから、きっと少し雨宿りすれば良い天気になるんじゃないかな?」
彼女が指差した先は、すぐ側にあるカフェだった。軒先を走れば、濡れずに店内までたどり着けるだろう。
「え……あ、うん……」
普段なら、絶対に断っていた。
そもそもひかりに話しかけられないように、極力接触を避けていたし。
しかし突然誘われたこともあり、咄嗟に反応が出来なかった。
それに誰がどう見ても雨宿りをするしかないこの状況で、断る理由を作るのも難しい。
「あんたが嫌いだから無理」くらいしか思いつかない。さすがにそこまで言う気にはなれなかったので、鏡華はしぶしぶ誘いに応じることにした。
これも前回の時と、まったく一緒だ。
カフェの入り口にはショーケースがあり、ガラス越しに様々なデザートの見本が置かれていた。
それを横目で見ながら、鏡華とひかりは店内に入る。
それなりに広い店であるにもかかわらず、客席は八割くらいが埋まっていた。他の客も雨宿りに来たのかもしれない。
ひかりは慣れた様子で、奥にあるソファ席に座った。
白露と愛梨は、鏡華たちがいる向かいの席に座ってニコニコ手を振っていた。おおかた気にせず楽しんで、とでも言っているのだろう。どっちみち気にしないけれど。
ひかりは機嫌が良さそうに、メニューを開いた。
「あのね、鏡華ちゃん! 実は私、絶対に食べたいものがあってここに来ました!」
「……何」
聞かなくても知っている。
「これ!」
鏡華は指さされた先を見て、怪訝な顔になる。
「こんな大きなパフェ……」
何度見ても、険しい表情になってしまう。
その反応を見て何を勘違いしたのか、ひかりは自信満々で宣言した。
「大丈夫、きちんと夜ご飯は食べるから!」
そんなことを心配しているのではない。
鏡華は怒りの叫び声をあげたくなった。
最初に来た時も思ったが、こいつ、他の生徒たちが死にものぐるいで体重制限をしていることを知らないのか!?
きっとひかりは「私あんまりダイエットとかしたことなくって……太らない体質だから。えへへ」ってやつだろう。ぶっ飛ばしたい。
鏡華が普段どれだけトレーニングをしているか、食事制限をしているかなんて知らないし、想像したこともないのだろう。
鏡華が辟易していると、ちょうど店員が鏡華たちのテーブルにやってきた。