前回の時と同じように、傘は持ってこなかった。傘を持ってきたら、ひかりとの接触は成立しない。
それに鏡華は、雨の日が嫌いではなかった。
しっとりとした空気も、アスファルトの湿った匂いも、雑音を消してくれる雨音も、自分を癒やしてくれるように感じた。
あの日もこうやって、雨宿りをしていた。
こういう強い雨は、意外とやむのも早かったりする。もう少しだけ待ってみよう。そう思ったのだ。雨宿りしているとひかりが手を振りながら、同じ店の軒先まで走ってきた。
今日も同じ一日を繰り返すように、ひかりが鏡華の元へやって来る。
「鏡華ちゃーん! 偶然だね。鏡華ちゃんも雨宿り? 突然、すっごい雨! びっくりしちゃった」
別に偶然というほどでもない。
同じ時間に学校を出て、同じルートで同じ寮へ帰るのだ。
ひかりはバッグからタオルを取り出し、びっしょりと濡れた顔や腕を拭く。
タオルを顔に押し当てながら、ひかりは鏡華に微笑みかけた。
「鏡華ちゃんも、タオル使う?」
その笑顔に、鏡華は思わず息を呑む。
「っ……いや……あたしは自分のがあるから、平気よ」
「そっか。ならよかった」
鏡華は自分のバッグから出したタオルを顔に押し当てながら、ぎゅっと唇をかみ締めた。
灰色に滲む空、耳が痛くなるような雨音、降りしきる雨で白く霞む景色。
その中でひかりが立っている場所だけが、やはり輝いているように見える。
ひかりが空を見上げる動作、長い睫毛で瞬きをする瞬間、薄紅色の唇からもれる吐息。そのすべてが、周囲の人間の心を惹きつける。
ひかりは特別美少女というわけではない。
もちろんそれなりに可愛らしいし、スタイルもいいけれど、顔の造りだけなら、ひかりより整った少女なんて、自分たちの通う学校には大勢いる。
なのに、どうしてか目が離せない。
ひかりは一部の生徒たちに『純白の妖精』という二つ名で呼ばれているが、そのことに納得してしまいそうな自分が悔しい。
ひかりは鏡華に対し、満面の笑みを向けた。ひかりが笑う時は、いつもこんな風に嘘のない笑顔だ。
それが羨ましくて、憎らしい。そして理由もなく、後ろめたい気持ちになる。
ひかりの笑顔にまるで自分の醜さを暴かれているようで、心が痛くなる。
それに鏡華は、雨の日が嫌いではなかった。
しっとりとした空気も、アスファルトの湿った匂いも、雑音を消してくれる雨音も、自分を癒やしてくれるように感じた。
あの日もこうやって、雨宿りをしていた。
こういう強い雨は、意外とやむのも早かったりする。もう少しだけ待ってみよう。そう思ったのだ。雨宿りしているとひかりが手を振りながら、同じ店の軒先まで走ってきた。
今日も同じ一日を繰り返すように、ひかりが鏡華の元へやって来る。
「鏡華ちゃーん! 偶然だね。鏡華ちゃんも雨宿り? 突然、すっごい雨! びっくりしちゃった」
別に偶然というほどでもない。
同じ時間に学校を出て、同じルートで同じ寮へ帰るのだ。
ひかりはバッグからタオルを取り出し、びっしょりと濡れた顔や腕を拭く。
タオルを顔に押し当てながら、ひかりは鏡華に微笑みかけた。
「鏡華ちゃんも、タオル使う?」
その笑顔に、鏡華は思わず息を呑む。
「っ……いや……あたしは自分のがあるから、平気よ」
「そっか。ならよかった」
鏡華は自分のバッグから出したタオルを顔に押し当てながら、ぎゅっと唇をかみ締めた。
灰色に滲む空、耳が痛くなるような雨音、降りしきる雨で白く霞む景色。
その中でひかりが立っている場所だけが、やはり輝いているように見える。
ひかりが空を見上げる動作、長い睫毛で瞬きをする瞬間、薄紅色の唇からもれる吐息。そのすべてが、周囲の人間の心を惹きつける。
ひかりは特別美少女というわけではない。
もちろんそれなりに可愛らしいし、スタイルもいいけれど、顔の造りだけなら、ひかりより整った少女なんて、自分たちの通う学校には大勢いる。
なのに、どうしてか目が離せない。
ひかりは一部の生徒たちに『純白の妖精』という二つ名で呼ばれているが、そのことに納得してしまいそうな自分が悔しい。
ひかりは鏡華に対し、満面の笑みを向けた。ひかりが笑う時は、いつもこんな風に嘘のない笑顔だ。
それが羨ましくて、憎らしい。そして理由もなく、後ろめたい気持ちになる。
ひかりの笑顔にまるで自分の醜さを暴かれているようで、心が痛くなる。