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 それから夕方になるまで、昨日と同じようにレッスンと授業がつつがなく進んだ。

 夕方の五時頃になると、鏡華は教室で帰宅の準備をする。


「あれ、鏡華さん、今日は放課後のレッスンはないんですか?」

「えぇ、今日のレッスンはこれで終わりよ」

「そうなんですか。早いんですね。あの、いつも夜遅くまで踊っているようだったので」


鏡華はこくりと頷いた。


「なんかレッスン室、今日は電気系統の工事するんですって。だから放課後は使えないのよ」

「そうだったんですね」


 鏡華は革製のスクールリュックを背負い、バレエ用品が入ったバッグを手に持って、挑むように口をきゅっと曲げる。


「この後、ひかりとパフェを食べにカフェに行くことになるわ」


 廊下を歩きながら、鏡華は深い溜め息をつく。気が進まないようだ。


「一度やったことをやり直すのって、変な感じ。本当にコンクールの日まではここにいられるのよね?」


 白露は笑顔でそれに答えた。


「はい、もちろんです。コンクールが終わるまではこの時間軸にいられますので、ご心配なく」


 靴箱で外履きに履き替えながら、鏡華は目を細めて空を睨んだ。

 さっきまでは晴れやかだった空に、少しずつ黒い雲が広がっていく。

 鏡華は気にせず学校を出た。


 空気は水分を孕んでじっとりと湿っている。鏡華は長い髪をかき上げ、いつのまにか泣き出した空を仰いだ。 

 天気予報では降るなんて言っていなかったのに、突然バケツをひっくり返したような強い雨が降り出した。前回と同じだ。


「うわっ、雨すごい。降るってあらかじめ知ってても腹立つわね」


 雷鳴が響き、遠くでチカチカと空が明滅した。

 近くを歩いていた生徒たちは、雨を避けるために走りだす。

 寮に帰る道のりを歩いていた鏡華は本降りになった雨から逃げるため、近くの店の軒先で雨宿りをすることにした。