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 次の日も鏡華は朝の五時に起き、準備をするとレッスン室に向かった。

 今日はまだレッスン室の鍵がかかっている。一番乗りだ。

 鏡華はそれを手に取り、銀色のチェーンをチャリチャリと回した。

 レッスン室でストレッチをしていると、聞き慣れた声が挨拶をする。


「おはよう、鏡華ちゃん」

「……おはよう」


 相手の顔を見なくても分かる。

 この時間から自主的にレッスンをしているのは、いつも鏡華とひかりの二人だけだ。


 別に他の生徒が怠けているわけではない。

 ただでさえ、朝から晩までバレエばかりして、生徒たちはみな疲れ切っている。

 わざわざ自主練までする体力があるのは、どうやら鏡華とひかりだけらしい。


 今日はあたしの方が到着が早かったから、あたしの勝ち。

 過去でもそんなくだらないことを考えたのを思い出した。


 早朝のレッスン室に、二つの靴音が響く。

 生まれたての太陽の光を、つるりとした床が反射している。

 鏡華はバーにつかまり、鏡にうつった自分の姿を真っ直ぐに見据えた。


 朝の練習が終わってひかりが出て行った後、白露は鏡華に声をかけた。


「ところで、いつひかりさんの靴に細工をするのでしょう? チャンスはたくさんある割に、なかなか行動を起こしませんね?」


 白露のニヤニヤ顔を見て、鏡華はイライラしたようにくわっと眉をつりあげる。


「うっさいわね、機会をうかがってるのよ、機会を! いつやろうが、あたしの勝手でしょ!? 何か文句でもあるわけ?」

「いえいえ、お客様がどのような過去を過ごそうと、お客様の自由です」


 愛梨は心配そうな声で鏡華を説得する。


「鏡華さん、本当にひかりさんの靴に細工なんかするんですか?」

「するわよ! そのためにここに来たんだから!」


 そう叫ばれ、愛梨はしゅんと頭を垂れる。

 それから廊下に貼られたカレンダーを見て、あっと声をあげた。