□



 レッスンが終わると、また座学だった。

 今度は何だろうと見物に行くと、何と外国語の授業だ。

 最初は英語かと思ったが、黒板に書かれた単語は愛梨の読めないものばかりだ。


「鏡華さん、これ何語ですか?」

「ドイツ語よ」


 そんなことをしていると、鏡華が教師に当てられた。

 鏡華は戸惑う様子もなく、席から立って流暢なドイツ語を披露する。

 教科書の一節をすらすらと滑らかに読むと、得意げな表情で着席する。周囲の生徒から拍手が起こった。

 愛梨もその様子に歓声をあげた。


「鏡華さん、円の面積は分からないのにドイツ語は話せるんですか!?」

「うっさいわね、あたしは自分に必要だと思ったことはちゃんと勉強するのよ!」


 授業が終われば昼食の時間だ。そして二十分くらいでさっさと昼食を食べると、鏡華は練習用の簡素なレオタードに着替え、再びレッスン室へ向かう。

 勉強と食事以外の時間は、ほぼすべてが練習だ。

 ハードなスケジュールに、愛梨は見ているだけで目が回りそうだった。



 授業が終わった後も、鏡華は熱心に自主練習をしていた。分からないことがあると、教師に聞きに行ったりする。

 レッスンが終わって再び寮に到着する頃には、夜の九時過ぎになっていた。とっくに日も暮れて、外は真っ暗だ。

 鏡華は人のいない食堂で夜食を食べ終わると、シャワールームに向かう。

 自室に戻る頃にはさすがに疲れ切っているようで、ぼすんとベッドに倒れ込む。


「はぁー布団最高ー」


 愛梨は彼女の生活に一日付き合って、素直に感心していた。鏡華には、一切遊びや息抜きの時間がない。本当に朝から晩まで、バレエのことだけをぎゅっと詰め込んでいる。

 年頃の女の子だから、遊びたいし他にやりたいこともたくさんあるだろう。それを全部我慢して、毎日こんな調子なのだろうか?


「お疲れ様です、鏡華さん。こんなに遅くまでレッスンしているんですね」


 寮の部屋は一人部屋だ。

 他の生徒を気遣わず会話出来るからか、鏡華も少し安心した様子だった。

 枕につっぷして眠そうな表情で、ぼそぼそと返事をする。