「和田様の食べたい料理は、こちらではないでしょうか?」
「こちら?」
そう言われても、机の上には何もない。
白露は愛梨に向かって、にっこり微笑んで同じ言葉を繰り返す。
「……こちらではないでしょうか?」
愛梨は持っていたお盆を口元に当て、はっとした表情で白露にたずねる。
「あっ、もしかして私が運んでこないといけないですか?」
「あなたの頭は飾りですか? わざわざ言わないと分かりませんか? あなたは何のためにここにいるんですか?」
「すみません、すぐ持って来ます!」
白露は虫も殺さぬような顔をしているが、どうやら人使いが荒いらしい。
数分後、愛梨が運んできた料理を見て、和田は目を丸くした。
「これは……」
和田は目の前に置かれたのは、フランス料理の前菜のようだった。
エビとトマトのソテーだ。
真っ白な皿におしゃれに料理が盛り付けられ、赤いソースが点々と彩られている。
和を前面に出しているこの店に、まるで似つかわしくないメニューだ。
しかし和田が驚いているのはそこではなかった。
和田はしばらく料理をじぃっと見つめていたが、やがて確信を得て顔を上げた。
「この料理、もしかして……!」