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 朝の練習が終わると、鏡華は授業を受けるためにロッカールームで制服に着替え、教室に向かった。

 一限目はどうやら算数のテストらしい。

 鏡華は自分の席に座り、配られた答案用紙をやる気がなさそうに眺め、近くにいた愛梨にちょいちょいと手招きをする。


「どうしました? 鏡華さん?」

「あんたの姿、他の人間に見えないみたいね」


 愛梨はびしっと背筋を伸ばし、大声で答える。


「は、はい! そうなんです、見えないんです! この時間軸の人間じゃないからみたいです。私もよく分からないんですけど!」


 鏡華は興味がなさそうに、くるくると鉛筆を回す。


「ふぅん。だったらテストの答えを教えなさいよ」


 予想外の誘いに、愛梨はさらに大きな声で答える。


「えっ!? ダメですよ、そんなの! カンニングじゃないですか!」

「いいじゃない、それくらい。テストの答え教えられないなら、あんた一体何のためにここにいるのよ?」

「な、何のためと言われても……」


 とりあえず、カンニングの手伝いをするためでないことは確かだ。


「それに私、勉強そんなに得意じゃないですから。問題が解けるかどうか」


 愛梨はそう言って、一応問題に目をやる。


「図形問題……円の面積を求めよ? あ、あれっ? すっごく簡単」


 鏡華は怠そうに唇を尖らせた。


「あったりまえよ。あんた高校生でしょ? 小六の問題解けなくてどうすんのよ」


 愛梨は目を見開き、ずいと身を乗り出した。


「えっ!? きょ、鏡華さん、小学生なんですか!?」

「そうよ、小学六年生よ。つうかあんた声うるさい。耳が破裂しそう。何でそんな全力なわけ?」

「そんな、すっごく偉そ……あの、堂々とした態度だから、中学二年くらいかと。じゃあランドセル背負ってるんですか!?」

「はぁっ、誰が偉そうですって!? ランドセルは今の学校だと背負ってないわよ。ここの学校指定のバッグはランドセルじゃないから」


 愛梨が頼りにならないと分かった鏡華は、ひたすら面倒そうに回答欄を埋めていく。時には鉛筆を転がし、出た番号の数字を適当に書き込んでいた。


「鏡華さん、適当すぎませんか?」

「どうせあたしは世界的なバレリーナになるんだから、勉強なんかいらないのよ」

「いくらバレリーナでも、円の面積くらいは求められた方が……」

「うっさい!」