とはいえ、鏡華が何もせずに、手をこまねいていたわけではない。

 鏡華はそれまでのように練習して練習してさらに練習量を増やし、身体が壊れるギリギリまで自分を追いつめた。

 今までどんな敵が現れようと、鏡華が倒せない人間はいなかった。

 自分は選ばれた人間だ。自分は天才だ。鏡華の実力を一番認めていたのは、鏡華自身だった。

 しかしそこまで研鑽を重ねたにもかかわらず、結局次のコンクールでも、鏡華はひかりに勝てなかった。


 本物の天才には、どう足掻いても歯が立たないのだということを知る。

優勝のトロフィーを胸に抱きながら微笑むひかりを、鏡華は一段下から見上げていた。


 ――そこはあたしの場所よ。今までずっとそうだった。


 そう思うのに、どうしても勝てない。

 だってひかりは、努力する天才なのだ。

 自分が血の滲むような練習をしているのと同じくらい、ひかりは努力していた。

 そして鏡華が一つ成長する間に、ひかりは駆け足飛びで、十も二十も成長していってしまう。

 ひかりが鏡華と同じ年だということが、より鏡華の苛立ちを募らせた。


 しかもひかりは、まったく苦しそうではない。

 早朝から深夜まで、授業の時間以外はずっと自主練習を続けているにもかかわらず、常にひかりは楽しそうなのだ。


 まるで陸にあがってきた人魚姫が、踊っている時だけは本来の自分に戻れるとでもいうように、ひかりが踊る様は生き生きとしていた。

 踊っていないと、呼吸をすることさえできない。

 だからひかりは踊る。楽しそうに、優雅に、華麗に。元の自分の姿に戻るために。

 ひかりはキラキラと、眩い光を纏って踊っていた。


 それにひかりは鏡華がどう逆立ちしても手に入れられない物を持っていた。

 ダンサーとしての華だ。


 まるでスポットライトが照らすように、ひかりがそこにいるだけで、周囲の人間は彼女にはっと視線を吸い寄せられる。

 ひかりが踊り出すと、誰もが息を止め、ひかりに注目する。

 今彼女を見ないと一生後悔するかもしれない。そんな風に、観客は食い入るようにひかりの演技に注目した。

 どんなに鏡華が努力しても、そのオーラは手に入れようがなかった。

 ひかりの踊りは指先一本一本までが鮮やか洗練されていて、夢のように甘美で完璧で、すべての観客を魅了した。

 素人が見ても、彼女が天才であることは歴然だった。

 バレエをかじったことがあるものなら、なおさらだ。


 自分は所詮、彼女をうつす鏡でしかないのだろうか。そう考えると、悔しさで張り裂けてしまいそうだった。

 これまで敗北らしい敗北を味わったことのない鏡華にとって、ひかりは憎むべき存在だった。

 ひかりが現れてから、鏡華は常に二番手になった。

 今まで一番しかとったことのなかった鏡華には、それは到底許せない出来事だ。

 ひかりがいなければ、一位になれるのに。

ひかりがいなければ、あたしが主役になれるのに。


 ――そして今年の夏のコンクールで、鏡華はやはりひかりに一位を奪われた。