その日も鏡華の演技は完璧だった。

 鏡華は常に本番では、完璧な演技を披露する。そうでないと、一番は獲れない。

 コンディションもよかった。審査員も、全員が満点をつけただろう。

 しかし鏡華の一つ後に踊ったひかりは、それを数段階上回る、さらに完璧な演技を披露した。

 学校内で行われる、規模の小さなお遊びの発表会。そのはずなのに、観客はスタンディングオベーションでひかりを褒め称えた。

 他のダンサーの時とはあまりにも違う反応に、ひかりは目をぱちくりとさせていた。


 審査員の点数表なんて見なくたって、結果は明らかだった。

 自分の時より、格段に上の反応を示す観客。

 顔に泥を塗られたも同然だ。当然鏡華がそれを放っておけるわけがなかった。

彗星の如く出現したライバルに驚き、鏡華はひかりを呼び止め、問い詰める。


「あんた、何者なの!? 今までどこの大会でも、見たことない……!」


 するとひかりは照れくさそうに笑い、はにかんだ様子で答えたのだ。


「私、まだバレエを始めて数ヶ月だから、分からないことばっかりなんだ。スクールの先生に勧められて入学したんだけど、お客さん、どうしちゃったんだろ? 私、何か失敗したのかな……? 変なことしてたら、教えてね」


 その言葉は、鏡華をさらに深くまで突き落とした。

 ひかりの演技はバランス、ポジション、テクニック、表現力、ともに完璧だった。まるでバレエの神様が乗り移ったように。それなのに、初心者?


「私の名前、東堂ひかりです。よろしくね」


 呆然としている鏡華の頭の中に、ひかりの声がいつまでも響いていた。