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 そんな順風満帆な計画に、少しずつ綻びが生じ始めた。

 現在より半年ほど前、十二才、小学六年生の春、鏡華は今通ってるバレエ学校に入学した。

 バレエ学校の存在は知っていたが、どうせすぐに留学するのだからと、最初は地元の私立小学校に通っていた。


 しかしスクールの講師から、「一日中好きな時にレッスンが出来るから、ぜひ鏡華ちゃんに」と推薦をもらい、特待生として授業料も免除されるということで、入学を決意した。

 無事名門バレエ学校の特別クラスに所属することになった鏡華は、そこで東堂ひかりと出会う。 


 鏡華の天下はそこまでだった。


最初鏡華は、ひかりのことなどまったく気にとめていなかった。これまでコンクールで出会った実力者は一応チェックしていたが、そのリストにひかりは入っていなかった。

 当然である。東堂ひかりは、鏡華の入学時、まだバレエを始めてたった数ヶ月だった。大きな大会に出場したことは、一度もなかった。


 だから知るよしもなかったが、実績のまったくない、バレエ初心者の少女が外部からストレートで入学試験に合格するのは、この歴史ある学校にとって前代未聞、天変地異が起こるような衝撃的な出来事だった。


 鏡華が入学してすぐ、生徒と保護者だけを集めた、小さな発表会があった。

 顔見せのようなものだ。負けず嫌いの鏡華が手を抜くことはもちろんなかったが、特に新しい発見もないだろうと考えていた。


 それなのに鏡華は、初めて惨敗した。

 名前を聞いたこともない、今まで見たこともない、完全にノーマークだった少女に――鏡華は完膚なきまでに、敗北した。

 それは鏡華にとって、人生初の大きな挫折だった。