客を出迎える声は明るく、表情もパッと大輪の花が開くように眩しくて裏がない。見ているだけでほっとするような、どこにでもいる普通の女の子だった。

 特別美少女というわけではないが、愛嬌のある子だ。


 彼女の服装も和風だったが、白露ほど正式な着物ではなく、動きやすそうな服だ。淡い赤を基調にした服が彼女の雰囲気と合っている。


「どうぞ、おくつろぎください」 


 グラスに入った水をテーブルに置く手つきが、まだたどたどしい。

 働きはじめたばかりなのかもしれない。

 それにかなり若い。女子高生くらいに見える。

 彼女はアルバイトだろうか。こんな遅い時間まで、しかも人気のない怪しい店で働いて大丈夫なのか、親御さんは心配しないのかと、ついそんなことを気にしてしまう。

彼女の様子をちらりと伺うと、真っ直ぐな視線とぶつかって面食らう。


 少女は一歩下がると、ぺこりと頭を下げた。


「私はこの店で手伝いをしている天龍愛梨(てんりゅうあいり)です。どうぞよろしくお願いします」

「はい、どうも。あの、ここは何の店なんですか? いい匂いがしたので、思わず飛び込んでしまったのですが」


 愛梨の後ろに控えていた白露が、よく通る声でそれに答える。


「ここはお客様の思い出の料理を提供する店でございます」

「思い出の料理?」

「はい。そのため、メニューはございません」



 よく分からない。

 メニューがないということは、時価だろうか。もしかしたらすごく高級な店で、ぼったくられるかもしれない。和田は別の意味でドキドキしてきた。