◇◇◇
オープンからひと月後。
順調に集客はすすんでいる。
今のところ、お客様は一日に三組から四組。
まだ儲けが出る程ではないけど、なかなか良い感じである。
ミント村の女性の中から宿で働いてくれる人もふたり見つかった。
私より少し年上の彼女達は、気立てがよく接客に向いている。
その為お客様の案内などは、ラナと彼女達に任せ、私は裏方の仕事や帳簿の管理などをするようになっていた。
そんな中、初めてのお客様のカミラさんが、王都での用事を終えて戻って来た。
「カミラさん、本当に戻って来てくれたのね。ありがとうございます」
カミラさんは、初めてのお客様の上に、初リピート客でもある。
再会が嬉しくて、この時ばかりは自ら部屋に案内しようとしていると、どこから聞きつけたのかライが駆け寄って来た。
ライは私の護衛だけでなく、ランカ村とのやり取りまで担当するようになっていた。
コンラード曰く、彼は頭の回転が早く、腕も立つ。
ミント村に比べて過激なランカ村への対応に向いているそうだ。
領主家としては困窮しているランカ村を放って置くわけにはいかないので、支援にするにも窓口は必要なのだ。
お金が貯まるまでの期間限定の家人のライに負担が多すぎると思いコンラードに意見しようかと思ったけれど、ライ本人に止められた。
彼としては、暇よりもいろいろ任せてもらった方がずっといいんだそうだ。
そう言い切るだけあって、体力的にも精神的にも負担がありそうな仕事を、涼しい顔でこなしている。
そんな滅多に動じないライの表情は、けれど今は険しい。
カミラさんを見つめる視線は、ちょっと思いつめている感じすらする。
カミラさんはそんなライに、初めて見る色っぽい笑みを浮かべて言った。
「ライ、そんなに私に会いたかったの?」
その瞬間、ライは小さく息を飲んだ。
そんなふたりの様子に、私は戸惑いを隠せない。だってすごく親密そうなんだもの。
カミラさんの前回の滞在はたった二日。
ライが彼女に一目惚れをしていたのは傍目にも明らかにだったけれど、直ぐに名前を呼び捨てにする程親しくなれるものなの?
普段はそんな気配を見せないけれど、ライって結構女性の扱いに慣れているのだろうか。
彼の横顔をそっと窺い見る。なぜか怒っていて、ちょっと怖かった。
対してカミラさんは余裕の表情。
ふたりの間に会話はない。
もしかしたら私がいるからだろうか。
邪魔だと思われているとか?
はっきりしないけれど、少しだけ場を外してみることにした。その間に再会の挨拶を済ましてくれたらいいし。
「ライ、カミラさんを部屋にご案内して。私はサービスの飲み物を持って来るから」
いつもよりゆっくりと、冷えたお茶を用意して、「海の間」に戻る。
海の間の扉はほんのすこしだけ開いていたのだけれど、近付くと声が聞こえて来た。少し様子がおかしい。談笑と言うより、争っているような?
大丈夫なのかと、様子を伺った私は視界に入った光景に目を見開いたーー。
オープンからひと月後。
順調に集客はすすんでいる。
今のところ、お客様は一日に三組から四組。
まだ儲けが出る程ではないけど、なかなか良い感じである。
ミント村の女性の中から宿で働いてくれる人もふたり見つかった。
私より少し年上の彼女達は、気立てがよく接客に向いている。
その為お客様の案内などは、ラナと彼女達に任せ、私は裏方の仕事や帳簿の管理などをするようになっていた。
そんな中、初めてのお客様のカミラさんが、王都での用事を終えて戻って来た。
「カミラさん、本当に戻って来てくれたのね。ありがとうございます」
カミラさんは、初めてのお客様の上に、初リピート客でもある。
再会が嬉しくて、この時ばかりは自ら部屋に案内しようとしていると、どこから聞きつけたのかライが駆け寄って来た。
ライは私の護衛だけでなく、ランカ村とのやり取りまで担当するようになっていた。
コンラード曰く、彼は頭の回転が早く、腕も立つ。
ミント村に比べて過激なランカ村への対応に向いているそうだ。
領主家としては困窮しているランカ村を放って置くわけにはいかないので、支援にするにも窓口は必要なのだ。
お金が貯まるまでの期間限定の家人のライに負担が多すぎると思いコンラードに意見しようかと思ったけれど、ライ本人に止められた。
彼としては、暇よりもいろいろ任せてもらった方がずっといいんだそうだ。
そう言い切るだけあって、体力的にも精神的にも負担がありそうな仕事を、涼しい顔でこなしている。
そんな滅多に動じないライの表情は、けれど今は険しい。
カミラさんを見つめる視線は、ちょっと思いつめている感じすらする。
カミラさんはそんなライに、初めて見る色っぽい笑みを浮かべて言った。
「ライ、そんなに私に会いたかったの?」
その瞬間、ライは小さく息を飲んだ。
そんなふたりの様子に、私は戸惑いを隠せない。だってすごく親密そうなんだもの。
カミラさんの前回の滞在はたった二日。
ライが彼女に一目惚れをしていたのは傍目にも明らかにだったけれど、直ぐに名前を呼び捨てにする程親しくなれるものなの?
普段はそんな気配を見せないけれど、ライって結構女性の扱いに慣れているのだろうか。
彼の横顔をそっと窺い見る。なぜか怒っていて、ちょっと怖かった。
対してカミラさんは余裕の表情。
ふたりの間に会話はない。
もしかしたら私がいるからだろうか。
邪魔だと思われているとか?
はっきりしないけれど、少しだけ場を外してみることにした。その間に再会の挨拶を済ましてくれたらいいし。
「ライ、カミラさんを部屋にご案内して。私はサービスの飲み物を持って来るから」
いつもよりゆっくりと、冷えたお茶を用意して、「海の間」に戻る。
海の間の扉はほんのすこしだけ開いていたのだけれど、近付くと声が聞こえて来た。少し様子がおかしい。談笑と言うより、争っているような?
大丈夫なのかと、様子を伺った私は視界に入った光景に目を見開いたーー。