ミント村全ての人に惜しまれながら、ライが旅立って半年が経った。


私は、ひとり岩場の温泉を訪れていた。

ライと出会ったこの場所に、私は頻繁に通っていた。

岩場の温泉は以前と違い、安全に整備されている。

目隠しもあるし、いつでも入れる足湯として整えられている。

ランカ村との関係も大分改善していた。懸念だった水不足も解消し、ミント村からの支援も行き届いている。

仕事が無い人はミント村リゾートのスタッフになり、元気に働き仕送りをしていた。


ライと一緒に始めたリゾート計画は順調に成長を続け、今ではトレヴィア王都でも噂をされる程の大きな施設になっていた。


気心の知れたスタッフに恵まれ、好きな仕事に成功して、私の望みはほとんど叶った。

だけど、ときどき襲って来る心の痛みは消えないまま。

私の心の中からライの存在が消える事は未だになかった。

旅人からときどきライの噂を聞く事があった。

詳細は知らないけれど、正式に次期フォーセル大公だと発表があったそうだ。

もう完全に別世界の人になってしまった。

きっと会う事も叶わない。遠目に見かけても声をかける事は許されない。

ライはきっと身分の高い姫君を妻に迎えて、大公として幸せに暮らしていくのだろう。

「可愛い奥さんが隣に居て欲しいって、言ってたものね」

ふたりで幸せについて語ったとき。
ライはそんな事を言っていた。

彼の事だからきっと良い人のしっかり見つけるのだろう。きっと望みは叶う。

だけど私は……希望通りになっているのに、幸福だと思えない。

満たされている時は会っても、心の奥に刺さった棘のような痛みは消えないまま。

好きな仕事が有っても、いつも寂しさと孤独を感じている。